スト敵視強める英国使用者~「ILO87号紛争」の背景

2014年7月10日

クリス・サイダーが、ILO(国際労働機関)の使用者側スポークスマンに就任して以来、基準適用委員会の審議が3年連続で紛糾している。ストライキ権につき、「国別に判断すればよい」、「 87号条約で保障されていない」と暴論を繰り返すため、同委員会が流会(2012年)したり、個別案件の多数が採択できない(2014年)事態に陥っている。

サイダーは英国産業連盟(CBI)の代表という肩書だが、本業は労務対策の弁護士だ。4年前のビデオインタビューにその本性が垣間見える。スト権を「おぞましきもの」と呼び、英政府が今以上のスト規制を放棄したと嘆く。さらに、英米の組合が国際労働団体へ資金を集めて運動を戦闘化させていると言い、敵愾心を露わにしている。

スト件数は増加傾向

英国では、サッチャー政権時代にストを強く規制する法律が制定されて以来、その確立には組合員の郵便投票と第三者機関による審査などが義務付けられた。これを無視した組合が、違法ストの損害賠償で財政破綻した例もあり、労働争議件数は激減した。

しかし、 90年代後半から左派系指導者が主要組合で台頭すると、「スト控え」の傾向に変化が生じた。最近の緊縮財政措置に対抗するため、ストを背景とした闘いを求める職場の声も強い。

これを抑え込むため使用者側はこの間、手続きの不備を口実にストの差し止めを裁判所に請求してきた。英国航空の争議では、圧倒的多数でスト権が確立されたが、退職した一部の従業員に投票用紙が配られたミスが認められ、ストップがかかった。2年前のロンドンバス争議では、スト前夜に差し止められ、裁判官はその理由を組合側に伝えもせずに退廷する事件も起きた。

だが組合の士気は衰えていない。今年もロンドン地下鉄で 48時間ストが2回あり、経営側が駅務合理化で譲歩した。

攻勢かける使用者側

一方、欧州人権裁判所では、スト権を巡る争訟でILO条約や専門家委員会の見解に言及する判例が最近増えている。英国のように、コモン・ロー(慣習法)によって法体系が成り立つ国の使用者は、国際司法の判決が持つ影響力を警戒する。多国籍企業の行動規範や貿易協定でILOの国際労働基準がかつてなく引用されている。

だからこそサイダーらは、ILOとその法哲学に攻撃を仕掛けているのだ。労働問題を専門とするサンフランシスコ州立大学のジョン・ローガン教授は、「米国の使用者団体がこれまでになくILO対策に乗り出している」と指摘する。

結社の自由委員会は、基準適用委員会と共にILO監視機構の両輪だ。今年の総会で、サイダーが新たにその使用者側委員に就いた。用意周到な使用者側の徹底攻勢。この事態を周知させ、広範な対策を図ることが労働組合にとって急務である。

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